ようこそ!あなたは67836人目の訪問者です。
 

◆教育長室から(若い教育者へ)


2021/08/31

発問

| by 教育長

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
 「発問」「指示」「説明」の3つを明確に区別して授業をしている若い先生方は何人いるのでしょうか。今回は授業の善し悪しをも左右する「発問」について述べてみます。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 授業を形作る上で最も重要な役割を果たすのが,「発問」「指示」「説明」の3つです。その内の「発問」を取り上げ,その際の配慮事項を述べてみます。

 

   教師の発問の善し悪しは,その授業の善し悪しをも左右します。それだけに,発問を精選されたものにする必要があるし,慎重に吟味もしなければならないものでもあります。

 工夫の見られない発問が学習意欲をそいでしまったり,理解の妨げなってしまったりしてしまうは十分、先生方は理解しているはずだと思います。しかし,これが結構多いのです。授業が成立しなくて「申し訳ありませんでした」という軽い問題ではないのです。「その授業はもう一度やり直すことはできない」ということを重く捉えてもらいたいです。

 

   紹介したい発問があります。これは某研究会でまとめた道徳指導案集の中にあった発問です。これをご覧ください。

 ・もう一度手紙を見たワンタくんは,どんなことを考えたでしょう。

   ・みんなが電車に乗ってきて,いやだなと思ったのはどうしてでしょう。

 ・手紙を読んだ子どもたちは,どう思っただろうか。

   ・石に化けて隠れていたぽんすけは,どんな気持ちだったでしょう。

   ・お母さんはやっちゃんのことについて,どんな感想をもちましたか。

 

 この発問をご覧になって何かお気づきにはならなかったでしょうか。 

 実は,この発問は「どんなこと考えたか」「どう思ったか」「どんな気持ちをだったか」「どんな感想をもったか」など,すべて気持ちを問う発問だということです。実に不思議なことですが道徳の発問というと,ほとんどがこのパターンです

 

   毎回,「どう思いますか」「どう考えましたか」と問われ続けられる授業が,子どもにとって本当に楽しい授業なのでしょうか。その発問で,子どもたちは本気になって考えるのでしょうか。年間35時間もこの調子では,そうは思えません。。正直言って余り工夫のない発問ではと,個人的には思っています。

 

   小学校学習指導要領解説道徳編を見ると,発問についてはこう記されています。

  平成29年度学習指導要領から

 教師による発問は,児童が自分との関わりで道徳的価値を理解したり,自己を見つめたり,物事を多面的・多角的に考えたりするための思考や話合いを深める上で重要である。発問によって児童の問題意識や疑問などが生み出され,多様な感じ方や考え方が引き出される。そのためにも,考える必然性や切実感のある発問,自由な思考を促す発問,物事を多面的・多角的に考えたりする発問などを心掛けることが大切である。発問を構成する場合には,授業のねらいに深く関わる中心的な発問をまず考え,次にそれを生かすためにその前後の発問を考え,全体を一体的に捉えるようにするという手順が有効な場合が多い。

 

   平成20年度 学習指導要領から

 教師による発問は,児童の思考や話し合いを深める決め手になる。特に,子どもの意識の流れや疑問を予想した発問,個性的な考えを引き出される発問,心が揺さぶられる発問など考えることが大切である。また,発問を構成する場合には,中心的な発問や中心課題となる発問をまず考え,次にそれを生かすためにその前後の発問を考えるという手順が有効な場合が多い。その中で,児童に発問を任せることがあってもよい。

 

 これを読むと特に気持ちを問う発問だけなくともよいのが分かります。また,平成20年度学習指導要領では「児童に発問を任せることがあってもよい」などと極めて柔軟に取り扱っている。

  「どう思いますか」「どう考えましたか」以外に,では,どんな発問が考えられるでしょうか。例えば,こんな発問はどうでしょうか。

 

 ①登場人物の表情を問う発問

  「太郎君は,そのとき楽しい表情をしていたのか,それとも悲しい表情をしていたのか。」

  登場人物の気持ちを問うのではなくて,その登場人物の表情を問う発問。「楽しそう」と子どもが言えば,さらにその理由を問うて学習を深めていくことができます。

 

  ②色で気持ちを問う発問

    「太郎君の気持ちを色に例えてみましょう。」

 登場人物の気持ちを色に例えることで読み取りを深めていく発問。太郎君の気持ちは灰色。その理由は「とても悩んでいるように思えたから」といった具合になります。

 

  ③漢字ひと文字で気持ちを問う発問

    「太郎君の気持ちを漢字ひと文字で表してみましょう。」

    ②のバージョン違いで,漢字ひと文字で登場人物の気持ちを表す発問。太郎君の今の気持ちは「怒」。その理由は「あれだけ裏切られたんだから,怒り以外考えられない」といった具合になります。

 

  ④もし,君だったなら…と自分に置き換える発問

    「もし,君が太郎君だったら,友だちを泣かしたりしますか。」

   登場人物の気持ちを問うのではなくて,自分のことに置き換えて,その行為を判断する発問。僕は太郎君のようなことはできない。その理由は「誰も人を殴る権利などないと思うからです」といった具合になります。

   ちょっと考えただけでも発問はこのように工夫できます。

 

   さらに,発問について考えてみましょう。

   冒頭で示した「どんなこと考えたか」「どう思ったか」「どんな気持ちをだったか」「どんな感想をもったか」などの発問群は,一般的にオープンド・クエスチョン(Opened Question)といいます。

 オープンド・クエスチョンは,多種多様な答えが期待できる「開かれた発問」です。例えば,「私たちはなぜ,国語を学んでいるのでしょうか」という発問は,子どもから様々な理由を聞くことができます。例えば,「日本国民だからです」「生活する上で必要だからです」といった具合で,ある限定した答えを求めてはいません。

 その意味ではまさに開かれた発問といえます。

 

  オープンド・クエスチョンとは逆に,クローズド・クエスチョン(Closed Question)というのがあります。

 例えば,赤いイチゴを指して「このイチゴの色は何色ですか」と問います。その問いに対する答えは「赤」以外にはありません。また,「あなたは算数が好きですか」と問います。その答えは「好き」か「嫌い」(あるいは,まま「どちらともいえない」)のいずれかに限定されます。拡散する(広がる)ことはありません。このようにある限定した答えを求める発問のことをクローズド・クエスチョンといいます。

 

 このように発問一つとっても様々なものがあります。

 しかし,例示した発問(登場人物の表情を問う発問,色で気持ちを問う発問,漢字ひと文字で気持ちを問う発問,もし,君だったなら…と自分に置き換える発問,オープンド・クエスチョン,クローズド・クエスチョン)のどれがいいかという問題ではありません。

 子どもの発達段階,能力,学習の程度に合わせて使い分けることが肝要になってきます。

 

   最後になるが,優れた実践者の発問も紹介します。それもまた参考にしていただければと思います。

  教育技術の法則化運動で有名な向山洋一氏が示した発問の定石は、

  ①知覚語で問う

     ・バスの運転手さんはどこを見ていますか。

  ②選択させる言葉で問う

   ・ペリーはどちら周りできましたか。

     ・多摩川の水は誰のものですか。

  ③発見させる言葉で問う

     ・二つの資料を比べて分かることはどんなことですか。

 

  次に,私の友人でもある道徳授業改革運動代表の深澤久氏の示した発問は、

  ①価値づくりの発問

    ・あなたにとって大切な人は誰ですか。

  ②値踏みの発問

    ・その人にお金で値段をつけるとしたらいくらですか。

  ・それは公平か,不公平か。

 

 以上,今まで紹介してきた発問を参考にしながら,発問づくりに磨きをかけ,教師としての力量を高めていただければと思います。




08:17 | 投票する | 投票数(7)