道徳の資料から引用しました。
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「正夫君,ちょっと。」
「はい。」
終わりの会がすみ,帰る用意をしているとき,先生に呼ばれた。返事をしたものの,なぜ呼ばれたのか,正夫には分からなかった。
「正夫君,きのう池で,さかなつりをしていいただろう。」
「えっ,はい。」
きのう,近くに魚がたくさんいそうな池を見つけた正夫は,そこでさかなつりをしたのだ。先生はそのことを言いたいらしい。
「君は転校してきたばかりだから,知らなかったかもしれないが,この学校では,あの池に近づいては行けないという決まりになっているんだよ。」
それから,先生は,なぜ,その決まりをつくったのか,子供会にも同じ決まりがあることなど,その池についていろいろおしゃった。そして,最後に,
「これからは,絶対近づかないように。」
と言って,教室から出て行かれた。
正夫たちは,父の仕事の都合で,今年の4月に静岡から引っ越してきたばかりだ。妹のみち子はまだ5歳で,最近,母もパートに働きに出るようになったので,学校から帰ってくる正夫をいつも心待ちにしていた。
「ただいま。」
先生に注意された正夫の声は,少ししずんでいた。いつもであれば,
「お兄ちゃん,お帰り」
と,元気よくみち子が飛び出して来るのだが,今日は声一つしあに。正夫は何となくおもしろくなかった。「小さい子は遊べていいな。」と思いながら,がばんを置き,宿題を始めた。
「アーァ,やっと終わった。」
もう5時過ぎである。今までも,みち子が一人で遊びに行くことはあったが,5時より遅くなることはなかった。正夫は,いつも,みち子が行く,公園に探しに出かけた。
「みち子,みち子!」
いくら呼んでも返事がない。
砂場にも,ジャングルジムにも,ブランコのあたりにも,みちこの姿はない。
少し心配になってきた。
「まさか」とおもいながら,正夫は,先生に注意された池の方に行ってみた。ところが, みち子が,その池に入ろうとしているではないか。
「あぶない! そんな所へ行っちゃダメだ。」
おどろいた正夫は,叫びながらかけよった。
「何しているんだ。この池はあぶないから,入っちゃいけない。」
「お兄ちゃん,あれ!」
目を真っ赤に泣きはらしたみち子の指す方向には,池の落ち込み口に流れていく人形がある。そこに流れ込むと,速い流れにのって,もう絶対とれなくなってしまう。
「お兄ちゃん,早くとって。」
みち子は,泣きじゃくるばかりだ。
その人形は,二人をかわいがってくれた祖母が,みち子の4歳の誕生日にくれたものでである。そして,祖母は,それからまもなくしてなくなった。
それ以来,みち子は以前にもましてその人形を大事にするようになっていた。
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「人形を取りに行くべきか」「取りに行くべきではないか」
いかがでしょうか。
